秘密の靄を燻蒸する一人の女

 女。……隣部屋には秘密の靄を燻蒸する一人の女がゐるのである。 そして、籐椅子へ凭れたまゝ直ぐさま横へ顔をそらせば、そこにも――一つの「もの」がある。それは昔女であつた。それはこの三年越しそこに睡むり、そして馬耳はそれのみを女と信じ、それから受ける全ての思ひ、たとへば冷淡な死と悲しい無関心さへ女の...

このエントリーの続きを読む≫

— posted by id at 03:38 pm  

馬耳は考へる

 馬耳は籐椅子に身をもたせ、女の姿が見えない位置に身を置いたとき、安心して隣室の方をながく眺め、編み物をする白い手頸を想像した。さうして、前こごみとなり、隣室のなかが見える時には庭の黄昏を眺め、高原を踏む荒い跫音を考へた。「今宵、荒々しい闘牛士の訪れ」 馬耳は考へる。自分はなぜ椿と呼ぶ若い教師に...

このエントリーの続きを読む≫

— posted by id at 03:37 pm  

老村長

 老村長はたどたどしい足どりで帰つていつた。 猪首の校長もぶり/\しながら学校へ戻る。外へ出ると興奮してゐる。なんて物好きな、わけの分らない老耄《おいぼれ》なんだ、あいつは!

 老村長は氷川馬耳といつた。五十五だが六十五にも七十にも見え、老衰が静かな哀歌となつてゐる。彼の顳※[#「需+頁」、第3...

このエントリーの続きを読む≫

— posted by id at 03:36 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 0.2704 sec.

http://webtertainment.tv/