果して珍客が来た

 その夜、果して珍客が来た。 珍客は生活に窶《やつ》れ、太い皺が彼の額を走つてゐた。彼の顔立は教育のない農夫のやうな鈍感な印象を与へるが、その大きな厚い唇は強情な意志を表はして、くひまがつてゐた。併し彼の眼は痛々しく憶病であつた。そして、鋤を握るにふさわしい頑健な骨格をしてゐた。武骨な青年は額に垂...

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見知らなかつた微妙な世界

 笑ふ男の背中から取り出された円みある柔らかい音。馬耳はその音に新鮮な力を、そして甘美な新鮮そのものを感じた。見知らなかつた微妙な世界が、また一つ展らかれたのだ。馬耳は新鮮な音に就て反芻した。「うまく、とれたな……」 馬耳は笑つた。そして三人は声をたてゝ笑ひだした。茫漠たる黄昏の靄のなかにて、哄...

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秘密の靄を燻蒸する一人の女

 女。……隣部屋には秘密の靄を燻蒸する一人の女がゐるのである。 そして、籐椅子へ凭れたまゝ直ぐさま横へ顔をそらせば、そこにも――一つの「もの」がある。それは昔女であつた。それはこの三年越しそこに睡むり、そして馬耳はそれのみを女と信じ、それから受ける全ての思ひ、たとへば冷淡な死と悲しい無関心さへ女の...

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